彼岸の灯り

怪談 |2026.06.21

先月、祖母が他界した。父の実家での葬儀を終え、片付けのために数日間、私は山梨の田舎町に滞在することになった。

祖母の家は町の中心から外れた山裾にあり、周囲には田んぼと林が広がっている。夜になると街灯もまばらで、星空だけがやけに鮮明に見えた。都会育ちの私には、その静けさが逆に落ち着かなかった。

滞在二日目の夜のことだ。遺品整理の疲れもあって早めに布団に入ったが、なぜか目が冴えてしまい、眠れずにいた。窓の外からは虫の声が絶え間なく聞こえている。

ふと、カーテンの隙間から、淡い光が差し込んでいることに気づいた。

最初は月明かりかと思った。しかし空には雲が広がっており、月は隠れていた。それでも光は確かに存在し、青白く、ゆらゆらと揺れていた。まるで誰かがろうそくの火を掲げて歩いているかのように。

私は好奇心に駆られ、布団から起き上がって窓を開けた。涼しい夜風が流れ込む。目を凝らすと、その光は家の裏手にある墓地の方から発せられているのがわかった。祖母の家の裏手には、代々の墓地がある。確か父が言っていた——あの墓地には江戸時代からの墓石が並んでいる、と。

青い光は、墓石の間を縫うようにして動いていた。ひとつ、ふたつ、数えるうちに、私はそれが一つではないことに気づく。少なくとも五つか六つの光が、墓の間を漂っている。蛍にしては光が強すぎる。色も違う。これは——聞いたことがある。

子供の頃、祖母から聞いた話だ。

「彼岸の灯り」——お盆の時期になると、先祖を迎えるために故人が現世へと戻ってくる。その道しるべとなるのが、青い灯りだと言われていた。灯りを目にした者は決して追いかけてはならない。それはあの世とこの世の境目を指し示すものであり、追いかけた者はそのまま彼岸へと導かれてしまう——。

子供の頃はただの昔話だと思っていた。しかし今、その青い光を目の当たりにして、私の足は震えていた。

それなのに、なぜだろう。光は次第に数を増し、まるで私を招くかのように、墓地の入り口の方へと集まり始めた。そしてその中で、一際大きな光が、ゆっくりと私の方を向いたような気がした。

その瞬間、耳の奥で誰かの声がした。

「——こっちへ、おいで」

声は確かに聞こえた。祖母の声だった。間違いない、亡くなる一週間前まで元気だった祖母の、あの優しい声だ。

「こっちだよ。さあ、おいで」

私は窓枠に手をかけた。靴も履かずに外へ飛び出そうとしていた。

その時——

「何してるんだ!」

背後から、父の鋭い声が飛んできた。私は肩を掴まれ、強引に窓から引き離された。振り返ると、真剣な表情で私を見下ろす父がいた。

「あれを見たのか」と父が言った。「彼岸の灯りだ。追いかけたら終わりだぞ。昔から言ってあるだろ」

私は無意識に頷いていた。父は窓を乱暴に閉め、鍵をかけた。

「今夜はもう寝なさい。明日、ちゃんと先祖の供養をしよう」

父はそう言うと、私の布団のそばに坐り、背中を向けてテレビをつけた。どうやら私が寝るまでここにいるつもりらしかった。窓の外のことは気にせず、ウトウトしろと言う。私は布団にくるまり、父の背中を見ながら、次第に意識を手放していった。

翌朝、父と一緒に墓地へ向かった。昨夜あれほど怪しく輝いていた場所も、昼間はただの古びた墓地にすぎなかった。父は線香と花を手に、祖母の新しい墓の前で静かに手を合わせた。私もそれに倣う。

その時、隣の古い墓石に、何かが刻まれているのが目に入った。

「——この地に葬られし者、彼岸の夜に彷徨う灯りに誘われて還らず」

それは戒名の横に、細かな文字で刻まれていた。江戸時代のものらしく、風化しかけていたが、かろうじて読むことができた。

「これ、どういう——」

「昔、あの灯りを追いかけて山に入ったきり、戻らなかった者がいるんだ」と父が静かに言った。「それがあんたの、ひいひいおじいさんの弟だそうだ。行方不明になって、結局遺体も見つからなかった。村の者は彼の死を確信して、戒名だけをこの墓に刻んだんだとさ」

冷たい風が吹き抜けた。墓地の入口を見ると、昨夜あれほどたくさん見えた青い光の気配は、昼の日差しの下ではまったく感じられなかった。

「今夜、どうしても気になるなら」と父が言った。「ちゃんとお線香をあげてから、家の中にいなさい。あの灯りは、お盆の時期にしか現れない。そして——年に一度しかない迎え火だと思えば、怖がることもないかもしれない」

父の言葉には奇妙な確かさがあった。私はその日、祖母の遺品の整理を続けた。そして夜、窓には厚手のカーテンをかけて、灯りを見ないようにして眠った。

しかし深夜、ふと目が覚めた時、カーテンの隙間から、やはりあの青白い光が差し込んでいるのを感じた。そして——今度は耳元で、はっきりと声が聞こえた。

「また来年——くるんだよ」

その声は確かに祖母のものだった。だが、その口調の中に、ほんの少しだけ、違う温度が混ざっているように感じた。優しさの中に、何かを待ち望むような、飢えた響きが——。

私は必死に目を閉じた。そして次の日、予定を早めて東京へ戻ることにした。

「あれから一ヶ月。今も時々、真夜中にふと目を覚ますと、カーテンの隙間から青い光が差し込んでいるような気がしてならない。こんな都会のマンションの窓の外に、墓地などないのに。それでも、あの優しい声が、遠くの方でまだ呼んでいるように思えるのだ。

先週、父から電話があった。実家の墓の掃除をしたら、あの古い墓石の文字が気になったから書き写しておいたと言う。父が読み上げたその文面には、最後にこんな一文が続いていた。

「——ただし、呼ばれし者のうち、生への執念ある者は七日にして還る。されど還りし者は、その目に何かを見たか、語ること能わず」

つまり、中には——あの灯りに誘われても、戻ってきた者もいるということだ。しかし戻ってきた者は、何かを見たのだろうが、それを誰にも話すことができなかったらしい。何を見たのか。それとも——戻ってきた者の言葉を、村の者が敢えて記録しなかったのか。あるいは、戻ってきた者が、もはや「元の者」ではなかったのか。

父は「忘れた方がいい」と言って電話を切った。しかしその言葉の裏に、父自身が何か知っているような、言い淀むような間があったのが気にかかる。父は幼い頃、あの家で育ったのだ。彼岸の灯りを、見たことがあるのかもしれない。

「こっちへおいで。——また、来年」

毎年お盆が近づくたびに、私はなぜか山梨の実家へ帰省したくなる自分に気づく。そしてそれが、あの灯りに呼ばれているからなのではないかと、そっと考えるのをやめられないでいる。迎え火は年に一度の灯りだ。そして——いつか、うっかり応えてしまわないように、今夜も窓に厚いカーテンをかけて、目を閉じる。

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