真夜中の配達人

都市伝説 |2026.07.01

この話を知っているだろうか——毎晩午前二時を過ぎた頃、あなたの家の玄関をノックする配達人がいるという話を。

最初に聞いたのは、今はもう辞めてしまった同僚のMだった。Mは夜更かしが習慣で、よく深夜までアパートで映画を観ていた。ある晩、二時を回ったところでインターホンが鳴った。モニターに映っていたのは、くたびれた青色の制服を着た中年の男。帽子を深く被っていて、顔はよく見えない。手には小さな段ボール箱を抱えていた。

「配達です」——声は平坦で、抑揚がなかった。まるで機械が発しているかのようだった。

Mは覚えがないと言って応答しなかった。すると男は三度、同じ調子で「配達です」と繰り返した。動作は機械的で、まるで決められた台詞を読み上げているようだった。間を置かず、正確に同じ間隔で。やがて男はくるりと背を向け、廊下の闇の中にすっと溶けるように消えていった。足音はしなかった。

翌朝、玄関の前に確かに箱が置いてあった。ダンボールは新品で、表面にはMの名前と住所だけが黒マジックで書かれていた。差出人の記載はない。伝票番号もない。切手すら貼られていない。ただ無地の箱に、無造作に走り書きされた文字だけがあった。

Mはすぐに捨てようと思った——でも、中身が気になった。気になって仕方がなかった。慎重にテープを剥がすと、中には一枚の写真だけが入っていた。暗い部屋の中で誰かが眠る姿を、天井付近から撮影した写真。寝ているのは紛れもなくM自身だった。横向きに寝ている自分の寝顔が、部屋の隅の上の方から捉えられている。写真の隅にスタンプで押された日付は、三日前のものだった。

つまり——誰かが三日前の深夜、Mが眠っている部屋に侵入し、天井付近から撮影した写真が、昨夜届けられたのだ。Mはその日、誰も部屋に招き入れていない。鍵は二重に掛けていた。窓も全部施錠していた。それでも、誰かが入って、寝ている横顔を三十センチの距離から撮影していた。

Mは警察に届けた。若い刑事は「嫌がらせでしょう」と言って、相手にしない様子だった。証拠として写真を提出しても、特段の反応はなかった。管理会社に問い合わせても、深夜に配達員が出入りした記録はないと言う。防犯カメラを確認させてもらっても、夜の十時から朝の六時までの間、Mの部屋の前を通った人影は一つも映っていなかった。

しかしMはその夜も眠れずにいた。ソファに座ったまま、インターホンのモニターをつけたまま、時計を見つめて過ごした。二時を十五分ほど回った頃——再び、インターホンが鳴った。その音は静まり返った部屋に鋭く響き、Mは思わず肩を跳ね上げた。

モニターには、同じ男が立っていた。同じ青い制服。同じ小さな箱。同じ深く被った帽子。そして同じ平坦な声で「配達です」と。

Mは声を殺して警察に電話した。十数分後に警察が到着したとき、玄関前に人影はなく、しかしきれいに箱だけが置かれていた。刑事は怪訝な顔でそれを受け取った。第二の箱の中身は、今度はMのスマートフォンのロック画面を撮影した写真だった。画面の時計は午前二時ちょうどを示している。背景には、Mの部屋のリビングが映っていた——Mがソファに座り、モニターを見つめている後ろ姿が、部屋の隅から撮影されていた。

撮影されたのは、今夜——まさに今、Mが警察に電話する直前。つまり、Mが玄関のモニターで配達人を見ている間、配達人とは別の誰かが、部屋の内部からMの背中を撮影していたことになる。

「中にいる」
Mはそう確信したという。配達人はもう外にはいない。いるとしたら——家の中に、撮影できる位置に。

Mはその夜、家じゅうの電気をつけて明け方まで過ごした。押し入れの中も、クローゼットの奥も、天井裏の収納も、冷蔵庫の裏も、洗濯機の内部までも、ありとあらゆる場所を調べた。誰もいなかった。誰の痕跡もなかった。シンクの水滴も、畳の凹みも、すべて自分の生活の跡だけだった。

それでもMは引っ越した。翌週には荷物をまとめ、会社にも退職届を出した。その話を最後に、Mとは連絡が取れなくなった。スマートフォンも解約されたらしく、電話をかけても繋がらない。SNSのアカウントもすべて消えていた。

後日、ネットで同じような体験をした人の書き込みを見つけた。口コミサイトの片隅に、ひっそりと埋もれた投稿だった。投稿者は「既に三度目の箱を受け取った」と書いていた。写真の内容は今回も自分の寝顔だったが、前回とは違って、写真の中の自分は目を開けていた。笑っていた。

「午前二時の配達に気をつけて。不在票はない。伝票番号もない。ただあなたの名前が書かれた箱が、毎朝玄関に置かれている。中を開けるな——開ければ、次は撮られる側になる。そして、そのうち写真の中の自分が、写真の外に出てくる」

同じ箱を受け取った人たちの間で、ある共通点があることにも気づいた。彼らは皆、最初の箱を受け取る以前に一度だけ、「青い制服の配達員」を街中で見かけた経験があったと言う。電車のホームの向かい側。コンビニの駐車場の隅。駅前のロータリーのベンチ。何気ない日常のふちに、あのくたびれた青色が一瞬だけ映り込む。そして数日から一週間の後、すべてが始まる。

つまり、あの配達人はずっと前からあなたを見ている。あなたの日常を、あなたの帰路を、眠る前の灯りを消す時間までを——すべて把握した上で、箱を届ける日を決めているのだ。

写真は撮られている。あなたがこの文章を読んでいる今も、どこかの天井裏や換気扇の隙間や、あるいはあなたのすぐ背後で——あの配達人がいつ来てもおかしくない。今夜、午前二時。インターホンが鳴ったら、あなたは出るだろうか。それとも、出ないと決めたところで、もう箱は届いているのかもしれない。

広告

📚 怖い話をもっと読みたい方に — Amazonで怪談小説を探す