三十四番目

学校の怪談 |2026.09.23

高校一年生の四月、転入してきたクラスで最初に気になったのは、黒板の左端に画鋲で貼られた座席表だった。B4の白い紙にボールペンで書かれた名前が三十三のマスに収まっている。それ自体はおかしくないはずだった。でも何となく、教室の席を数えてみた。一列六席、五列と端の三席。三十三。正しい。なのに何度数え直しても、教室には三十二人分の気配しかなかった。窓から差し込む四月の光も、並んだ机も、黒板に書かれた担任の名前も、何もかも普通なのに、何かがひとつ、足りないような気がしてならなかった。

最初は転入したばかりで顔と名前が一致しないだけだと思った。けれど一週間が過ぎ、二週間が過ぎても、三十三番目の席の子を一度も見た記憶がなかった。名前は「水谷 静」。後列の窓側から二番目。私の席は前から三列目の廊下側なので、ちょうど斜め後ろ、やや離れた位置にある。授業中にふと振り返ると、その席に椅子があり机があり、でも座っている人がいない。前後の席の子たちも、まるでそこに誰かいるかのように、自然にその机を避けて体を動かす。そのくせ、誰もその席を気にしている様子がなかった。

隣の席の岸本さんに「水谷さんって誰?」と聞いた。岸本さんはきょとんとした顔で「知らない、そんな子いたっけ」と笑った。前の席の中田くんに聞くと「座席表にそんな名前あった?」と首をかしげた。担任の西田先生に聞こうとして、やめた。先生の顔が少し「聞いてほしくない」という形をしているような気がしたから。

出席番号の紙が配られた日、私の手元に一枚余分な紙が紛れていた。薄い紙に小さく印字された「三十三番 水谷 静」。私はそれを職員室に持っていき、担任の西田先生に渡した。先生はその紙を受け取り、しばらく沈黙した。指でゆっくりと折りたたみながら、「これ、どこにあったの?」と聞いてきた。「机の引き出しに入ってました」と答えると、先生は出席簿の後ろにその紙を挟んで「ありがとう」とだけ言った。何も説明しなかった。廊下に出た私の背中を、先生の視線がしばらく追っているような感じがした。

その夜、眠れなかった。翌日の放課後、図書室の奥の棚を探した。学校新聞のバックナンバーがファイルに綴じられている。手書きの壁新聞をB4にコピーしたもので、一年分、二年分、三年分と棚に並んでいた。三年前の秋の号を開いた時、「在校生追悼」という見出しが目に入った。一年B組、水谷 静。十月、校舎屋上から転落死。享年十六。担任のコメントとして「真面目で友人も多く、原因がまったくわからない」とある。記事の横に白黒の写真が一枚。セーラー服、肩まで届かない黒い髪、カメラをまっすぐに見据えた目。その目と視線が合ったような気がして、私は反射的にページを閉じた。ファイルを棚に戻し、急いで図書室を出た。

それからおかしなことが続いた。朝、教室に一番乗りした翌日、三十三番の席の椅子が半分だけ引き出されていた。前日に全員分入れたのを覚えている。掃除の後は必ず机の下にしまう決まりなのに、その一脚だけが引き出された形で残っていた。三日後、その机の上に白い消しゴムが置かれていた。どこにでも売っている、名前の書かれていない消しゴム。昨日はなかった。指でつまむと、表面がかすかに温かかった。私はそれを自分の机の引き出しに入れた。誰にも言わなかった。

十月の末の放課後、図書室に「本日は早閉め」の張り紙があり、やむなく教室へ引き返した。廊下の電気はもう落ちていて、夕日の細長い影が床を斜めに染めていた。教室の引き戸に手をかけて、少し開けた。橙色の光が教室に満ちていた。三十三番の席に、人がいた。後ろ姿。セーラー服。肩まで届かない黒い髪。窓の外を見ていた。逃げようとした。足が動かなかった。

「また来てくれた」——振り向かずに声が言った。静かな、遠いところから届くような声だった。「ずっとここにいるの?」と私は聞いた。自分の声が思ったより落ち着いていた。「ここしかいられない」。「みんなには見えないの?」「見えない。あなただけ」。ゆっくりと彼女が振り向いた。写真と同じ顔だった。でも写真より少し疲れているように見えた。目の下に薄い影があり、口元が力なく結ばれていた。

「なんで私には見えるの」——少し間があって、彼女は言った。「あなたが三十四番目だから」。私の出席番号は三十二だ。転入生の一番最後で、そこで番号は終わっている。「三十三番があなたで、三十四番は……次に見える人、ってこと?」。彼女は答えなかった。代わりに机の引き出しをゆっくりと開けた。中に折りたたまれた白い紙が入っている。「それ、何?」「三十五番目が来たら、渡すもの」。

私は一歩も動けなかった。彼女は引き出しをそっと閉じて、また窓の外を向いた。その横顔が夕日の橙色の中でだんだんと輪郭を失っていくようで、私は教室を走り出た。廊下を走り、階段を走り、昇降口を飛び出して、校門まで一度も振り返らなかった。

翌朝、教室に着いた。黒板横の座席表を見た。三十三のマス、三十三の名前。でも三十三番目のマスには「水谷 静」ではなく——私の名前が書かれていた。ボールペンの、いつものあの字で。いつ書き換えられたのか、誰が書き換えたのか、分からない。私は自分の席に座った。いつもの椅子だ、いつもの机だ、と自分に言い聞かせながら。岸本さんも中田くんも、何も言わなかった。先生も何も言わなかった。

それから、私の椅子が時々引かれている。夕方に掃除で入れても、翌朝には半分出ている。机の上に白い消しゴムが置かれることがある。名前のない、かすかに温かい消しゴム。私は毎回それを引き出しに入れる。引き出しの中に消しゴムが増えていく。

昨日、クラスに転入生が来た。前から二列目の廊下側に座った男の子。自己紹介を聞きながら、私は背中が冷えるのを感じた。今朝、その転入生が朝礼前に黒板横の座席表を指さして言った。「ねえ、この座席表って何人分ある?三十三?三十四?」。彼は私の名前が書かれた三十三番のマスと、そのすぐ隣の空白を、首をかしげながら見比べていた。岸本さんも中田くんも、彼の問いかけには答えなかった。

私は机の引き出しを開けた。昨日の放課後、誰もいないはずの教室に戻った時、机の上に置かれていたものがある。折りたたまれた、白いB4の紙。私はそれをまだ開いていなかった。今朝、その転入生の言葉を聞きながら、引き出しの奥から紙を取り出した。開いた。一行だけ書かれていた。「また来てくれた、と言うこと」。私は紙を折りたたんで、またそっと引き出しに戻した。それから転入生の方を向いて、席を立った。

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